桜島大根で地域交流

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はじめに

桜島大根と言えば、世界一大きな大根品種として有名です。鹿児島県の特産ですが、意外にも鹿児島県以外でもけっこう作られています。と言うのもトーホクでは桜島大根のタネを販売していますが、鹿児島県以外でも全国的にかなりの販売数があるのです。今回、トーホクのタネを使って桜島大根の品評会を開いているグループがあると聞いて訪ねました。

20年近く続いている品評会

場所は岡山県南部の浅口市金光町。観光地として有名な倉敷市の西隣に位置しており、温暖な気候と豊かな自然に恵まれたまちです。桜島大根の品評会は、それこそ鹿児島市や地元のJAなどが主催する「世界一桜島大根コンテスト」が有名ですが、この金光町下竹地区では19年前から「下竹区桜島大根品評会」として開催されています。今年度(2022年度)は18回目で(2021年度はコロナで中止)、始まった経緯や発起人は定かではないのですが、現在は区長の木科(キシナ)純一さん(71才)が代表を務めています。7月に区民全世帯(約240世帯)にタネが配られ、それぞれが工夫して栽培し、2月にこれぞと思う大根が品評会に出品されます。今回は25名が出品しました。出品者の皆さんは、年齢もまちまちで、還暦を過ぎておられる方もいれば、若い主婦もいます。また後で詳しく説明しますが、地元の小学生も参加しています。

代表の木科さんによれば、この地域で桜島大根は8月末から9月5日までにタネをまき、それぞれの家庭で数株ずつ作られているようです。皆さん工夫をされて栽培されているようで、例えば畑の土を充分に耕すことや、堆肥などの有機質を多めに投入する人、また土質に注目して栽培する畑の選定に凝る人など、様々です。ただ暑い時期の土づくりが最も苦労することで、お彼岸頃までは水やりも大変です。その後も25~30日に一度は追肥を施し、その後の水やりも欠かせないなど、日常管理も気を抜けないとのことです。

例年品評会は2月中旬と決まっていて、品評会の前日にあらかじめ収穫した自慢の大根を地域のコミュニティーセンターに持ち寄り、重さなどが記録され、翌日の表彰式に臨みます。今年度は2023年2月17日に品評会が行われました。

品評会の審査方法は重量です。最も重い大根から順に優勝、準優勝と続き、5位まで表彰されます。またその他に5つの特別賞が区役員によって決められます。「ちんぴんで賞」、「バランスがいいで賞」、「これぞ桜島大根で賞」、「ブービー賞」、「次はがんばりま賞」の各特別賞が表彰されます。

ちょうど地元ケーブルテレビ局のゆめネットも取材に来ていました。歴代の最高記録は33㎏だったそうですが、その時はギネス記録のことなど思いもよらなかったとのことです(ちなみに当時のギネス記録は31.10kgでした)。温暖な気候が幸いしてか、毎年30㎏前後のものが優勝するそうです。

表彰式の様子。約40名程度がコミュニティーセンター前に集まりました。

テレビ取材を受ける優勝した大西隆さん。

小学生の2チーム、「きょうりょくビッグ大こんチーム」と「なかよくゆうしょうめざすぞチーム」は、惜しくも準優勝と4位でした。

表彰状を授与するのは区長の木科さん。

大きさだけでなく、個性豊かな形の桜島大根も並びます。おそらく大きさより面白いものを作ることを目指した人が持ち込んだと思われる大根もありました。特別賞の「バランスがいいで賞」は、なかなか立派な胴回りでした。

なお品評会の後は、地区のコミュニティークラブ『いきいきサロン下竹』との共催で桜島大根を使った料理をみんなで食べて歓談していたのですが、新型コロナの影響でここ2年は残念ながら歓談は中止になっています。皆さん各家庭に大根を持ち帰っておでんなどの煮物や、「晴れの国おかやま」らしく切り干しにして楽しまれるとのことでした。

地元小学生は毎年優勝候補

ところで参加者の所でも触れましたが、品評会には地域の子供たちが通う浅口市立金光竹小学校(2022年度の全校生徒は41人)も参加しています。金光竹小学校の岸誠一校長先生によれば、品評会には10年程前から参加しているそうです。当初は3年生の総合的な学習で取り組んできましたが、年間計画の見直しを受けて1・2年生の生活科に変更し、今年度は1年生8名、2年生8名が取り組みました。

講師として地元の原田正利さん(81才)と、大西隆さん(81才)に学校に来てもらい、栽培の要点や管理作業の手順などを指導してもらっていますが、タネまきから収穫まで、できる限り子供たち自身の手で世話をすることを指導方針としています。水やり、草抜き、虫とりなどの日常管理を通して植物とふれ合い、野菜栽培の大変さを学んでいます。驚いたことに小学生チームはいつも優勝候補だそうで、子供たちも最初から絶対に1位になりたい、優勝を目指すんだと意気込んで取り組んでいるそうです。

畑が校舎の南側にあるので冷たい北風を受けにくく日当たりも良いことに加えて、講師のお二人の経験が活かされた土づくりも大きく成長させるポイントではないかと言われています。しかし何より子供たちの目が良く届くところで栽培することで、日常管理が疎かにならない点も見逃せない点でしょう。

表彰式の後、コミュニティーセンターの中では小学生による体験発表が行われます。植物を観察し、長期間にわたる野菜の栽培を小まめに記録するのは大人でも大変なことですが、参加者の前でタネまきから収穫までの成長記録、栽培管理で頑張ったこと、学んだことを発表します。

学習面だけでなく、地域の人との交流は学校としても大切にされています。地域の活性化に向けた様々な取り組みの中に子供たちが直接参加することは、地域住民が子供たちの成長を見守れる機会であるだけでなく、今後の地元社会を担う子供たちに住民同士のつながりの大切さを感じてもらう意味でも、今の時代貴重な時間ではないかと感じました。

発表の最後に、お世話になった講師の原田さん(左)と大西さん(右)に子供たちから感謝状が送られました。ただ大西さんは自分が小学生チームを抜いて1位になってしまい、申し訳なかったと平謝りです。

教育的意義もさることながら、辛い作業もみんなで乗り切り、興味津々で巨大な大根作りに挑戦した日々は、子供たちにとって素晴らしい思い出になることでしょう。

ギネスに挑戦しませんか?

菜園家にとっては、栽培しやすく、みずみずしい肉質で様々な調理に使える青首大根が重宝されますが、一度桜島大根を作ってみてはいかがでしょう?桜島大根はこんなに大きく育ってもスが入らず、またしっかりとした肉質にも関わらずなめらかな舌ざわりが特長です。菜園仲間と大きさを比べ合うのもいいでしょうし、毎年の大きさを記録してギネス記録に挑戦してみるのはどうでしょう?
ちなみに2023年2月22日時点の「最も重い大根」ギネス世界記録は45.865kg(万田発酵㈱・広島県尾道市)です。

おわりに

家庭菜園はわずかな場所でもそれなりに楽しめます。このように地域の中で年齢に関わらず共通の話題で盛り上がれるコミニケーションツールとして桜島大根に目を付けられたことに感心しました。タネが小学生からお年寄りまで、同じ条件で同じ目標に向かって競い合い交流ができる、そして地域の活性化にも役立っていることに営業マンとして新鮮な喜びを感じた一日でした。

最後になりましたが、快く取材に協力し貴重な写真も提供していただいた下竹区長の木科純一様、金光竹小学校の岸誠一校長先生に厚くお礼申し上げます。
<岡山県営業担当T>

追加情報

桜島大根には血管をしなやかにする“トリゴネリン”という成分が豊富に含まれていることが鹿児島大学農学部教授の加治屋勝子先生によって発見されています。血管は血液を全身に運ぶ重要な役割を担っていますが、老化や強いストレスなどを受けるとしなやかさが失われていき、いわゆる硬化が進みます。従来大根には抗酸化作用のほか、高血圧や血栓の改善作用などが報告されていましたが、加治屋先生によれば血管の伸縮に欠かせない一酸化窒素(NO)の産生能が、桜島大根は青首大根の4倍にもなり、有効成分であるトリゴネリンの含有量は、青首大根の60倍もあることが確認されています。心筋梗塞や脳梗塞といった重大な病気にも関わる動脈硬化対策として、注目の食材と言うわけです。更に海外の研究ではトリゴネリンは認知症予防や筋肉増強などにも効果があるとも言われています。詳細は加治屋先生のサイトをご覧ください。