第3回 作ってないと叱られる野菜
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野菜作りを始めて10年。市販の栽培本に載っている野菜はひと通り育てました。その中で、「何度作ってもおもしろいし、本当に役に立つなあ」と思うのが、秋から冬にかけて始めるタマネギとネギです。妻からは毎年、釘を差されます。「あなたの大好きなエダマメやスイカもいいけど、一年中使えるタマネギとネギをくれぐれもよろしくね」。物価高の昨今、カレーに欠かせないジャガ・タマ・ニンジン、そして納豆に欠かせないネギ。この4品目は、自給する価値がとても高い野菜だと思っています。
手間もイベントになるタマネギ育苗
タマネギを初めて栽培するなら、市販の束苗を植えるのが簡単です。でも、ぜひ一度はタネから育ててみてください。収穫したときの達成感がまったく違いますから。とはいえ、実際にはなかなか大変。タマネギのタネは小さいうえに真っ黒です。培土も黒っぽいので、老眼の目には完全に保護色状態。「今つまんだのはタネか? それとも土か?」なんてことを真顔でやっています。農業資材のメーカーさん、培土でもタネでもいいので、どちらか白くしてもらえませんか(笑)。
サラリーマン週末菜園家にとって、9月中旬のタマネギのタネまきは毎年の一大イベント。80穴トレーを2枚使い、早生種と晩生種を育てています。培土は多少高くても「タネまき用」と書かれた細粒タイプがおすすめ。ただし、一度開封するとすぐ乾燥するので注意が必要です。乾いた培土にいきなり水をかけると、水をはじいてタネまで流れてしまいます。そこで私は土を2回に分けて入れます。まず8分目まで入れて十分に水を吸わせ、その上から残りを足してもう一度水やり。これなら均一に湿ってくれます。ちなみに、培土や堆肥の袋の内側が黒いのは乾燥防止の為だそうです。なるほどですね。
タネまきは無風で明るい室内が安心。ダイニングテーブルに新聞紙を敷き、トレーを置いて、小皿に水と爪楊枝を用意します。濡らした爪楊枝の先でタネを1粒ずつ拾い、土に差して静かに抜く。1穴3粒なので240回。トレー2枚なら480回。数字にすると気が遠くなりますが、椅子に座って黙々と続けていると、不思議と嫌ではありません。全部まき終えたとき「ああ、一仕事終わった」という満足感に包まれます。その後は屋外へ出し、発芽まで新聞紙をかけます。1週間もしないうちに、たいてい3粒とも元気に芽を出してくれます。
「鉛筆サイズ」なんてできません
ここで白状します。栽培本には「鉛筆くらいの太さの苗を植えましょう」とよく書かれていますが、私は一度もできた試しがありません。鉛筆どころか、せいぜい爪楊枝サイズ。これ、本当に育つの? 毎年、自分でもそう思いながら植えています。市販苗と並べると明らかに頼りなく「途中で枯れる株があるのでは」と心配になり2~3本立ちのまま植えています。
植えつけ直前のタマネギ苗。確かに発芽はそろっているが、どれも爪楊枝サイズ
私の借りている市民農園は、一度借りると区画が変わりません。なので冬の間は、近所の区画と見比べてため息ばかり。「ああ、今年もうちだけ負けてるな」。ところが春分の日を過ぎると様子が一変。あんなにヒョロヒョロだったタマネギが、「実は本気出してませんでした」と言わんばかりに太り始めます。毎年この展開なのに、毎年驚いています。
1月19日の様子。植えつけた時点からほとんど大きくなっていない。ほんとうに肥大するのか?
挽回の決め手は、液肥の追肥かなあ、と思っているところです。以前は鶏糞をマルチの植え穴にひとつまみずつ施していたんですが、時間がかかるし腰が痛くなるので止めました。今は1月上旬と2月中旬に一回ずつ、液肥をまいているだけですが、3月になると一気に肥大し始め、収穫期には周囲とほとんど変わらない立派な玉になります。まあ、わたしの畑が暖かくてほとんど霜が降りないからかもしれません。冬の寒さが厳しい地域ではあてはまらないでしょうね。
4月5日、大きくなってきたがまだこの状態
2~3本立ちのまま育てているので、葉タマネギがたくさんとれる。「まあ、小さいままでもいいか」と思えてくるほど葉タマネギは超美味
逆に周囲を見渡してみると、冬前から大きく育ちすぎた株は、とう立ちしてしまうこともしばしば。結局、小さいまま冬を越したほうが成功しやすいのだと実感しています。冬の間は地上ではほとんど変化がなくても、地下ではしっかり根を張り、春に備えて力を蓄えているのでしょう。だから細い苗でも心配ありません。春になると一気に丸く太っていくタマネギ。その変化を見るたびに、植物の生命力に驚かされます。
しかし、はい、6月にはこの通り。あんなに小さかったのに不思議だなあ
余談ですが、新タマネギにはとっておきの食べ方があります。ときどき野菜を差し入れている近所の居酒屋の女将さんに教わった「新タマネギのグラタン」です。皮をむき、頭に十字の切れ込みを入れて、とろけるチーズをのせて電子レンジで約5分。仕上げに醤油を少々、タバスコを数滴。甘く、とろけるような新タマネギのおいしさを、一番シンプルに味わえる食べ方だと思っています。収穫した早生種の半分以上は、この食べ方で消えていきます。早生種から優先して消費し、晩生種は収穫コンテナに入れて貯蔵しながら使っています。
収穫コンテナは風が通るので貯蔵用に使いやすい
ついでに記しておきますと、長期貯蔵のポイントは、収穫直後にあります。水分を飛ばす必要があるのですが、必ず日陰で乾かしてください。日なたで乾かしたり、あるいは洗ったりすると傷みます。その後は、冷暗所で保管。自宅の1階で日の当たらないキッチンの一角に置いています。病気にでもなっていなければ、腐ることはありません。
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収穫したら根と茎葉を切り落とし、魚干し用ネットに入れて陰干し
ネギは買うのがもったいない
はっきり言います。ネギはタマネギ以上に育てる価値が高く、タマネギよりずっと大らかで、失敗が少ない野菜です。9月上旬に畑の端へ2列ですじまきして軽く土をかけ、水をやる。あとはほぼ放任。タマネギと違って、書くことがないくらい手がかかりません。発芽率が高く、一袋まけば苗は山ほどできます。もしかしてタマネギも畑に苗床をつくったら太い苗になるのかな? 今シーズンは苗床とトレーの両方で比較してみようかと思っています。
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タネまき時に水やりして以降は放置。でも1月中旬には薬味で使うには十分過ぎる大きさに成長します
特に葉ネギはどんな大きさで使ってもOK。若いうちに間引けば薬味で使えますし、植え替えれば太く立派な葉ネギにも育ちます。しかもネギは多年草。株元を5センチほど残して切れば、また新芽が伸びて数回は収穫できます。もちろん、市販品のように真っ白で太い根深ネギを作るには熟練の技術が必要です。でも、そこを目指さなくてもいい。わが家には常にネギがある。その安心感たるや……。
元気のよい苗を選んで植え替える。これは長く太く育てます
家庭菜園は最高の生活防衛術
惜しげもなく使えるネギたっぷりの麻婆豆腐は、わが家の名物と胸を張って言いたい。これだけは妻を頼らず、10年以上私が作り続けています。豆腐4丁、ひき肉500グラムにネギ4本。麻婆ネギに豆腐が入っているような割合です。でも、自分で育てたネギだからこそ、豪快に使えるんですよね。スーパーで買ったネギでは、もったいなくてこんなに一度に使えません。
1週間で使う分のネギをごっそり抜いたところ
タマネギとネギを収穫するたび「家庭菜園と自炊の組み合わせほど、頼もしい生活防衛術はないよね」と妻の顔がほころびます。頼りがいのあるところを妻に示せて、私の自己肯定感も高まります(笑)。使いたい放題にネギを刻み、とれたての新タマネギを丸ごと頬張る。節約と小さな贅沢を同時に達成できるのが、家庭菜園の醍醐味かもしれません。(2026年9月1日)
【プロフィール】
東京都心にあるマンションのベランダでミニトマトやルッコラを作るうち、栽培への興味が爆発。子どもが大きくなってきたこともあり、思い切って田園地帯へ移住した。畑のある暮らしに大満足しているが、難点は畑作業に割ける時間が足りないこと。月〜金は1時間20分の道のりを通勤してフルタイムで働き、週末に挽回するスタイルで畑を維持している。バイクに荷物を括りつけ、6〜10月は海釣り、11〜5月はキャンプもしたいので、段取りが命。
現在、借りている市民農園には30組の利用者がおり、第一線を退いて畑仕事に励んでいる様子を見るにつけ「早くあの人たちのようになりたい」と羨ましい。この連載では、畑デビューから10年がたち、今では無農薬・無化学肥料栽培で年に40品目を作るまでになった経験をもとに、勤めと両立するノウハウを中心にお伝えします。失敗談も恥ずかしげもなく披露しますので、どうぞご期待ください。(妻木)
