ダイコンの移植栽培をやってみました

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ダイコンの苗はなぜ売ってないの?

家庭菜園のシーズンになると、園芸店やホームセンターには多くの苗が並びます。トマトやナスなど果菜類、キャベツやハクサイなどの葉菜類など、買った人はポットで育てられた苗をそのまま畑に植えればよく、大変便利です。(タネを扱う我が社としては、できればタネをまいて苗を育てて栽培を楽しんでいただきたいと思いますが・・・・、それはさておき。)苗の売り場には実に様々な種類が並んでいます。でも例えばダイコンやニンジンの苗はあるでしょうか?

そのようなポット苗を見たことはないはずです。ダイコンやニンジンのような根菜類はどうして苗では売ってないのでしょうか?その答えは簡単です。ポットで育った苗を植えても、立派なダイコンやニンジンができないからです。ダイコンやニンジンは移植栽培できないのです。本当かな?と思う人のために実際にやってみましたのでその結果を今回はご紹介します。

ダイコンのポット苗を移植してみる

実験は9月にタネをまき、11月に収穫する栽培で行いました。畑にダイコンのタネをまく時、同時にポットにタネをまいて苗を育てました。畑と同じように植穴に3粒ずつタネをまいて成長に伴い間引きを行い、本葉が4~5枚になった時に畑に植え付けました。ポットは9cmポットを、培土は市販の育苗用培土を使いました。

植え付け時の様子。右上は比較の直播き栽培のダイコン。

ポット苗を植え付けている様子。ポット全体に根が行き渡っていました。

ていねいに植え付け、その後数日はジョーロで水やりをして活着させました。

植え付けから2週間後の様子。右上の直播き栽培に比べて一回り株は小さいですが、素直に成長しているようです。

11月に入って収穫が近づいてきた頃の様子。左が移植したもの。右が直播き。地上部だけを見ただけでは差は分かりません。

ただ株元を見てみると直播きではダイコンがまっすぐに立っているのに対して・・・・、

ポット苗を移植した方には、ダイコンの首が横を向いて伸びているものもあります。

抜いてみるとポット苗を移植したものは全て短く、又根になっていました。右上は直播き栽培の収穫物。

ポット移植したダイコン収穫物。全て先端が分岐している。根の重さを測ってみましたが、直播き収穫物に比べて約半分の重さでした。

直播きしたダイコンの収穫物。1本だけ又根になりましたが(右端)、他はまずまずの収穫物でした。味を確認しましたが、直播きのダイコンはみずみずしく、甘みもありましたが、ポット苗の方は甘さが感じられず苦みもありました。

このようにダイコンは直播きした方が生育もよく、素直に育つことでみずみずしく味も良いものができることが分かります。ポット苗ではまともな収穫物にもならないことが分かります。

ニンジンの移植栽培

ニンジンについても実験をしてみました。8月にタネまきして11月の末に収穫する計画で、畑と同時に9cmポットにタネをまきました。生育に伴い間引きを行い、タネまきから約1カ月後のポット苗を畑に移植しました。

ポット苗を植え付けている様子。根はポット全体に行き渡っています。

根鉢を崩さないようていねいに植え付け、その後ジョーロでていねいに水やりをしました。

植え付け後2週間後の生育の様子。

11月末の収穫期が近づいてきた頃の様子。葉の様子は若干小さいだけで特に変わりはありません。

しかし収穫したニンジンを見てみるといずれも短く、先端は又根状になって細かい根がトグロを巻くようにかたまっていました。食味を調べたところ、みずみずしさに欠け、甘みも感じられませんでした。

直播きの収穫物。1本だけ奇形が見られたが、ほぼきれいな収穫物がとれました。

どうして根菜類は直播きしかできないのか?

ダイコンとニンジンについて、実際に育苗して育てたポット苗を移植して栽培しましたが、直播きには全く及びませんでした。どうしてこのような結果になったのでしょう?

実はダイコンもニンジンも、最初に出た一本の根が地中深く伸びて行き、そのまっすぐに伸びた細い根がその後次第に横に太り、ダイコンやニンジンになることが分かっています。最初に伸びるその根の生長は非常に速く、発芽から数日で既に地中深くまで達しています。ですからポットで苗を作った場合、その最初の根は発芽後数日でポットの底にたどり着いて、その先端は実はもう成長を止めているのです。既に又根になっていて、あとは成長の止まったところまでは何とかして太るのでしょうが、正常な肥大は望めず、そのためみずみずしさに欠けたおいしくない収穫物になっていたのです。

根菜類の栽培の醍醐味

ダイコンやニンジンに限らず、多くの根菜類はこのような性質を持っていますから、移植栽培は出来ません。畑に直接タネをまいてしか育てることはできない野菜なのです。しかし一方で、これら野菜は深くまで充分耕し、石などを取り除いて、施した堆肥や肥料をよく混和して馴染ませると言った入念な準備しておけば、タネをまくだけで素晴らしい青果物を収穫できます。根菜類の栽培の醍醐味は、周到に準備した畑を使って抜くまで(収穫するまで)結果は分からない一発勝負の野菜作りなのかも知れません。

腕の良い人は、毎年の結果をもとに畑の耕し方や堆肥や肥料のやり方にも改良を加えています。力強くまっすぐに伸び、表面の肌もきめ細かく、あまくみずみずしい肉質のダイコンやカブ、風味豊かなニンジンやゴボウなど、自分なりに納得のいくものを収穫する道のりは決して容易ではありません。しかしだからこそ、そのような野菜作りのおもしろさに挑戦してみたくなるのかも知れませんね。