果菜類のタネ
はじめに
今回は、カボチャやキュウリ、ナスやトマトなど果実を利用する野菜、いわゆる果菜類のタネについての紹介です。これらは基本的に青果物を栽培する感覚でタネができると思われがちです。実際収穫したスイカを割れば黒いタネが入っていますから、青果栽培さえ失敗しなければタネは自然と得られるものと思われるのも無理はありません。しかし皆様に安心して使ってもらう為、確実に発芽して健全に生育する、しかも交配種のタネを商業的に大量生産するとなると事情はかなり異なります。その技術的なポイントを交えながら作場をご案内いたしましょう。
果菜類採種のポイント
果菜類の採種においては、普段スーパーで並んでいる野菜としての食べ頃よりもさらに成熟させて種子をしっかりと充実させることがポイントです。十分な発芽力と生育性を兼ね備えたタネは、病気に罹ることなく最後まで健全に生育させた株の上に果実を着けておくだけでなく、種子の成熟時には日中と夜間の気温差も利用して、最も充実した種子ができるよう栽培時期を調整するなどの工夫が必要です。
例えばキュウリですと下の写真の一番左にあるような大きさまで果実を肥大させます。
通常の青果物のキュウリは花が咲いてから7~10日後のものですが、採種用には中の種子を充実させるためにそれからまた30~40日成長させます。株の老化をできるだけ抑え、最後まで健全に生育するような栽培管理が必要です。
採種用に収穫されたキュウリの果実(採種果)
一方肥大し過ぎると果実が割れたり、腐ったりして肝心の種子を回収できなくなります。また過熟によって成熟した種子が果実の中で発芽してしまうこともあり、採種用の果実をいつ収穫するかの判断には、植物の成長とその時々の気候を見極める熟練された技術が必要です。
ニガウリの採種果
ナスの採種果
トウガラシの採種果
ズッキーニの採種果
果実の中で発芽させてしまった失敗例(そうめんカボチャ)
確実な交配技術
もう一つ果菜類の採種において重要な技術ポイントがあります。果菜類の野菜の多くがその他の野菜同様F1品種(交配種)となっていますが、ナス科やウリ科の野菜においてはアブラナ科野菜で紹介したような交配種のタネ採りに都合の良い自家不和合性や雄性不稔性などが存在しません。ですからこれら果菜類の採種はほとんどが人工交配によっています。
人工交配とは基本的にはカボチャやスイカの栽培でおなじみの人工授粉と同じですが、確実に雄親系統の花粉だけが雌親系統の雌しべに付くように細心の注意を払います。狙った組み合わせの交配種のタネが得られるように、雌親株に咲く花と、雄親株に咲く花両方に開花前に袋かけをして純潔を保ち、それぞれが同じ日に開花したタイミングで授粉させます。野菜の種類によっては果実1個から相当な数のタネが得られますので、人間の手による交配作業でも十分な量が得られるのですが、これがなかなか大変で神経を使う作業ですので、その点について詳しく説明しましょう。
単性花の野菜
キュウリやカボチャ、ニガウリなどウリ科野菜の多くは単性花と言って、雌花と雄花が一株の中でそれぞれ分かれて咲いてくれるので、F1組み合わせの雌親系統の雌花と、雄親系統の雄花それぞれに開花前日に袋をかけておき、花が咲いてきたら人工授粉してF1種子を得ます。
キュウリの雌花
キュウリの雄花
カボチャの雌花
カボチャの雄花
スイカの雌花
スイカの雄花
ニガウリの雌花
ニガウリの雄花
トウガンの雌花
トウガン雄花
マクワウリの雌花
マクワウリの雄花
ユウガオの雌花
ユウガオの雄花
ズッキーニの雌花
ズッキーニの雄花
ヘチマの雌花
ヘチマの雄花
両性花の野菜
一方ナスやトマト、トウガラシなどのナス科野菜は、両性花と言って花の中に雌しべも雄しべも両方あります。ですから雌親系統においては花が咲く前に雄しべの摘除(除雄)を徹底しておく必要があります。
ナスの花
トマトの花
ピーマンの花
交配漏れ果実を排除する
そして最も気を付けなくてはならないのは、交配されてない果実を徹底して摘除することです。交配されずに着果した果実の中にも自然交配で種子が実りますが、その中の種子はF1品種になっていません。そのため人工授粉を行った果実には必ず印を付け、印の付いた果実のみを適期に収穫します。
準備した雌親系統に、雄親系統の花粉を確実に交配するだけでも相当な根気が要求されますが、このような交配から漏れて実った果実が混入しないよう、純度100%の種子を得るのは神経を使う仕事で、それを確実に行うにはそれなりの経験と技術が求められます。
このようにして採種された種子はPCRによるDNA検定を行い、その純度が検査されます。
また実際栽培して青果物に異状がないかも調べられます。
果菜類の採種地選定
このような状況の中で私たち種苗メーカーは採種適地を選定します。つまり野菜が順調に生育する自然環境があるだけでなく、十分な栽培技術、特に確実な人工交配技術と徹底した種子管理ができる人材の確保が求められます。アジアの各地域にはこれらの要求が叶えられる温暖で災害の少ない自然環境と、器用で几帳面、さらに責任感の強い民族性から、共同で採種を行える環境が整っています。また連作を避けられる面積的な余裕があり、同種の野菜の青果栽培から一定の距離を置いて隔離ができることも採種地としての好条件の一つです。
ニガウリの人工交配を確認中の担当者(東南アジア)
キュウリの採種圃場(東南アジア)
スイカの採種圃場(東南アジア)
ズッキーニの採種圃場(南アジア)
カボチャの採種圃場(南アジア)
ユウガオの採種圃場(南アジア)
ナスの採種圃場(東アジア)
ピーマンの採種圃場(東アジア)
外国で生産する為の健全な原種の準備
ご覧いただいたように果菜類のほとんどのタネが近年国外で生産されています。ただし国外に持ち出すそれぞれの原種は、国内で完全に隔離して細心の注意を払って栽培され、その栽培状況は生産する諸外国のそれぞれの要求に応じた輸出検査を受けています。そして植物防疫所の検疫済み証明書とともに海外の採種現場に届けられて生産が始まります。また当然生産国から日本への輸入時も、輸入植物検査が植物防疫所によって行われた後に通関されますので、国内に病気や害虫が持ち込まれることはありません。ついでながら国内のビニールハウスなど施設内で完全に隔離して原種採種が行われている様子をご紹介します。
ピーマンの原種採種
ナスの原種採種
トウガラシの原種採種
トウガンの原種採種
カボチャの原種採種
ニガウリの原種採種
キュウリ原種採種
おわりに
ナスやキュウリをはじめとする果菜類の採種には他の野菜とは性質の異なる注意が要求され、非常に手間がかかっていること、そして種類に応じて適地での栽培を求めるためにほとんどが外国での採種となっていることがご理解いただけたでしょうか?ただトーホクに限らず種苗メーカーは、不順な天候や自然災害などで採種が思うようにいかない作場や、政治的な要因で輸入ができなくなった時のことも考え、複数の地域で採種することで危険分散を図っております。また不測の事態に備えて十分な在庫も確保しております。タネが外国産ということで不安視することなく、安心してご利用いただければ幸いです。