北海道でがんばる
ある農業女子グループ

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はじめに

近年農産物の直売所がどんどん増えてきています。直売所がぽつぽつ目立ってきた当初は、車付けの良い道路わきなどに、無人市や良心市などとも呼ばれる屋根だけの小屋のようなものに、料金を入れる箱があるだけのものでした。しかし最近は観光施設には必ず直売コーナーはありますし、また「道の駅」などでは直売コーナーは施設の目玉にもなっています。今回は、「農業がおもしろい!」という女性グループが行っている直売活動を見せていただいた報告と、合わせて彼女たちが進めているその他の活動を紹介したいと思います。

グループの発足

「〇〇女子」という言葉が色んな所で聞かれ、女性の活躍がクローズアップされる今日この頃ですが、今回紹介するこのグループ「ふらのっこ」は、北海道の富良野地域(正確には上富良野町から富良野市にかけての地域)の農業後継者の女性が6年ほど前に集まって発足しました。組合の青年部でもなければ婦人部でもない、農業経営者の女性グループです。
富良野と言えば北海道の観光名所のひとつ。北海道内に限らず全国から多くの人が訪れます。遠くに大雪山系を眺めることのできる雄大な景色の広がる丘陵では、季節にはラベンダーはじめ様々な花が咲き誇り、甜菜や大豆、収穫期を迎えたコムギ畑などのパッチワークの風景をカメラにおさめようと多くに人が訪れ、メロンやジャガイモ、トウモロコシといった採れたて野菜も味わえる、農業が基本にある観光地です。
グループ発足当時は月に1回程度、食事でもしながら話をしませんかと言う経営者同士の情報交換とメンバーの息抜きの場で、農作業の苦労話に始まり、たわいもないことをみんなでワイワイ話をしていたと言います。そうこうしている中で、まずはグループで直売コーナーを借りて農産物を売ってみようとなりました。メンバーの5人は、それぞれ経営形態は違いますが逆にそれぞれの得意分野を合わせることで、そしてそれぞれが自分の考えで違う作物を作っているからこそ消費者の求めていることがつかめて、それを共有することで期間を通してお客様に喜んでもらえるブースになるのではと考えたそうです。

直売コーナー

それでは「ふらのっこ」グループが借りている直売コーナーをのぞいてみましょう。

場所は富良野市の中心にある複合商業施設フラノマルシェ1内にあるファーマーズマーケット、オガール。数グループがそれぞれブースを割り当てられており、各スペースは幅1.5mほどで、陳列棚は奥行40cmほどの3段です。

ブースに出荷物を陳列する前多さん。自分で値段を付けるのは初めてで、最初は苦労したとのことです。

黄色いズッキーニやコールラビは少々値段が高くても不思議に売れていくとわずかに笑みがこぼれていました。

ハーブ類は使い切れる量に小分けし、手を出しやすい価格設定になっています。

リーフレタスには彩りを添える目的でスイスチャードが数枚入っています。お客様の目に留まりやすいひと工夫ですが、それが収益アップにつながると安丸さん。

出荷する野菜が少ない時期には、安丸さんが冬の農閑期に作ったグッズが並びます。野菜をモチーフにした磁石や子供が喜びそうなシール、若い女性向けのピアスなど、いずれも野菜愛にあふれたグッズは観光客に好評とか。

ヘチマは足のかかとの角質取りや食器洗いにとの説明書きが裏にあります。女性ならではの商品です。

買った人が自宅のキッチンでそのまま育てて、必要に応じて料理に使うことを考えたインテリアグッズのようなハーブ苗。おしゃれなカップに入れ、木の枝のラベルをつけるだけで売れる量は一気に増えたとか。これも女性ならではの発想です。

訳あり品には工夫を凝らしたポップがついていました。規格には当てはまらなくても、新鮮でおいしいものを求めているお客さんがいることを確信しているようです。

別の訳あり品のポップにはユニークな泣き落とし作戦(?)。作り手の愛情が感じられるポップに、思わず心が動かされました。

次は皆さんの出荷する野菜が作られている様子をちょっと見せてもらいましょう。

前多さんの家の裏にあるビニールハウスでは、ところ狭しと色々な野菜が作られていました。

安丸さんのハウス。ここにも実に数多くの種類の野菜が作られていました。

育苗ハウスのちょっとしたスペースを利用して育てられたハーブ苗の出荷準備をする四釜さん。

本谷さん。短期間で出来る野菜はタマネギの育苗ハウスの空スペースを使っていました。

稲の育苗ハウスの端でタネをまいたばかりの豆の発芽を確認する高橋さん。

食育について考える

直売活動を進める中で、メンバーの中で子育て中の高橋さんからひとつ提案がありました。自分が子育て中のこともあり、子供たちの口に入るものには特に気を付けていますが、これから成長する子供たちに何を食べさせればよいのかについて迷っている自分と同じ親世代に向けて、何か発信していきたいと。高橋さんは米農家ですので、いくつかの種類のお米を直売コーナーに出していました。品種の違いとそれぞれの特長は、当然知ってもらわなければ買ってはもらえないとの思いもありました。お米も野菜も、品種や育て方によってそれぞれ違ってくることを分かってもらう機会があればと「ふらの野菜探検隊」と名付けた親子で参加できる農業体験会を企画しました。同じ地域に住む人が、自分たちが買って食べる野菜がどのようにしてできているか、まずは農業の仕組みや作物の姿を感じて知ってもらおうと言う企画です

収穫体験では子供たちが自分の手で収穫した野菜を喜んで食べてくれるのを目の当たりにした母親が、「我が子がこんなに野菜を食べるのを見たのは初めてだ」と驚く姿にこの企画をやってよかったと手ごたえを感じたと言います。ただ準備に時間を要するイベントの効率性も痛感し、限界も感じていました。食育の必要性は認めるものの、どこまでが自分たち生産者の領域なのだろうかと悩んでいるそうです。
「安いもの」から「おいしいもの・安心なもの」への発想の転換には様々な機会が必要ですが、収穫以外の農作業体験などで農業を理解してもらうなんて大それたことは出来ない。昔は稲刈りの終わった田んぼは子供たちの遊び場で、そこで切株や稲わらの感触を自然に覚えたが、最近はそんな場所が身近にないのが現実。生産者の苦労を分かってもらうより、栽培されている様子を見ることができて農業を身近に感じる環境を作っていければと。そしておいしいものを食べた経験があれば自然とそちらに手が出る様な事までが自分たちができる最大限かもと。

ラジオで発信する側に

次に持ちあがったのは、それでも何か積極的に発信しようという企画です。

農業は毎日の生活と直結し、身近にワクワクポイントがいっぱい転がっていて、それを楽しんでいるだけでストレスは感じないと語る本谷さん。だからこそ農業の魅力について伝え切れてないと焦りもあり、少なくとも地元の人と共有することから始めたいと考え、そこで思い付いたのがラジオだったそうです。
農作業にラジオは欠かせませんが、地域の農業に関する情報が流れてこないことに疑問を持ち、放送を使って発信する側にまわってみようとコミュニティFM「ラジオふらの」(77.1MHz)で平日の約5分間の放送時間をもらいました。番組名は“ふらのっこ野菜日和”。内容は、「私たち農家はこの季節はこんな作業をしていますよ~」とか「こんなことを考えながら仕事していますよ~」といった季節感を感じてもらう話をしたり、農家の人なら必ず経験のある農家あるある話をしてみたりと、話題は多岐に渡っています。ひと月に1回、みんなで集まって放送する内容を決めて台本のようなものを準備するそうですが、メンバーそれぞれの経営作物も違うので話題は尽きないとか。今後はゲストを呼んで話題を広げていく予定だそうです。

コミュニティーFM「ラジオふらの」のスタジオでの収録の様子。

彼女たちのモチベーションは?

今回紹介した5人は「ふらのっこ」というグループをつくりましたが、それぞれはまた別のグループにも入っていてそこに仲間がいて色々な情報を共有していました。女性ということで集まって話しやすいこともあれば、女性ということを取っ払ってこそ話が進むビジネスもあるのでしょう。そうやって自分の立ち位置を確認して、方向性を見失わないようにしているのかも知れません。お話を伺っていると、女性ならではの細やかなセンスと、タフな経営者の厳しさの両面が垣間見られます。そしてなにより、そのバイタリティーあふれる行動の原動力は、農業が大好きで、その大好きな農業をみんなにもっと知ってもらいたいという熱い気持ちだと感じました。

「小さな活動でも色んな所でたくさんやれば大きな活動になる!」と熱く語る一方、「楽しく元気にお金儲け♡」と明るく話をしてくれた四釜さん。直売所出荷での情報交換から始まり、食育イベントやラジオ番組などの活動を通して社会に働きかけていくことはなかなか大変なことです。しかしきびしい自然と向き合いながら、富良野という地の利も活かしつつ頑張っている5人の女性グループの皆さん、彼女らの活動は新しい農業の時代の流れを予感させます。

おわりに

全国的に直売所が活況を呈している中、ある程度の広さの畑を持っていれば栽培技術を身に着けて直売所へ出荷しようとする人は今後ますます増えると予想されます。今までは新鮮さが売りになっていましたが、新鮮さは当然のこととして次は出荷されている野菜の特異性に消費者の目は向き始めています。今までの常識にとらわれない新しい発想と生活者目線で出荷される品目を選定し、更には地域住民との接点も考えるなどの新しい感覚を採り入れた様々な工夫が、売り場同士あるいは売り場内での競争で差がつく要因となる事態がもう既に来ているのでしょう。既成の価値観を打ち破り、新しいことを始めるにはエネルギーが必要です。しかし人と人とのつながりがそれを可能にするパワーを与えてくれるものなのだと実感しました。地域に密着した地道な活動をされているまだまだ多くの生産者の皆さんの要望に応えられるよう、トーホクでは今後も多様な品揃えを高品質の種子でお届けし、もっともっと皆さまのお役に立ちたいと感じた取材でした。

今回お世話になった「ふらのっこ」の皆さん。
上段左から、四釜啓美さん、高橋友美さん、前多里美さん
下段左から、本谷志雅子さん、安丸千加さん
ご協力ありがとうございました。