子供たちのニンジン嫌いは克服できるか?
学校給食に食材を提供している野菜農家と種苗メーカーとの取り組み
アロマレッドニンジンは肉質の柔らかさやニンジンとしての甘みだけでなく、香りの面からも食味を引き立てている品種として広く利用していただいており、ニンジンが苦手という大人はもちろん、特にニンジンが嫌いという子供たちでも食べられるとして認知が広がりつつあります。
ところで宇都宮市郊外で長く農業を営まれている小堀明男さんは、近隣の小・中学校に給食用野菜を納入されており、小堀さんとしては子供たちに喜んでもらえるようにと、特にニンジンに関してはトーホクの「アロマレッド」を栽培して提供されています。トーホクとして、それはそれで喜ばしいこととタネを販売しておりましたが、果たして給食でそのニンジンを食べている子供たちは実際どう感じているのか?子供たちの率直な感想を聞けないものかと小堀さんの納入先の小学校の一つに相談を持ち掛けました。その結果、給食でニンジンが提供された際に、子供たちがどのように感じたかについてアンケートを取ってみようとなりました。
調査方法
2025年1月14日の給食において、メニューの一つとして“ニンジンしりしり”が提供されるというので(アロマレッドのみを使った“ニンジンしりしり”です)、食事後1年生から5年生までの児童を対象にアンケート用紙を配り、率直な意見を書いてもらいました。
今回給食で提供された”ニンジンしりしり”
(三年生の平均的な1人分)
アンケート項目は以下の通りです。
①ニンジンは好きですか?嫌いですか?(好き ・ 嫌い)
②その理由は?(見た目(色)・ におい ・ 味)
③給食のニンジンを食べてみて、今後このニンジンなら食べられますか?(食べられる ・ 食べられない)
④その理由は?
調査結果
1年生から4年生に関しては各学年10名ずつ、5年生に関しては34名、合計74名の児童がアンケートに応じてくれました。集計した結果は以下のようになりました。
まず『ニンジンが好きですか?嫌いですが?』については、ニンジンは≪好き≫と答えた児童は47名(63.5%)、ニンジンは≪嫌い≫と答えた児童は26名(35.1%)、またどちらでもなく≪ふつう≫と答えた児童が1名いました。
理由については、≪好き≫と答えた児童も、≪嫌い≫と答えた児童も、いずれも味がポイントになっていました。また、においを嫌いな理由に挙げる児童は比較的少なく、このことはおそらくニンジンを単体で食べる機会が少ないことからあまりニンジン本来のにおいを直接感じたことがなかったからかも知れません。
一方≪好き≫と答えた児童には、ニンジンの見た目が好きな理由と答えている児童も少なからずおり、おそらく鮮やかな紅色が料理映えすることからこのような理由を挙げているものと思われます。また逆に嫌いと答えた児童には見た目を理由に挙げた子供は非常に少なく、『見るのもいや!』という子はほぼいない結果でした。
さて本題の『今日の給食のニンジンを食べてみて今後このニンジンなら食べられますか?』という質問です。
アンケートの結果、そもそもニンジンが≪嫌い≫と答えていた児童26名の内、15名(57.7%)が、このニンジンなら≪食べられる≫と答えてくれました。やっぱり≪食べられない≫と答えた11名(42.3%)もいましたが、半数以上の子供たちがアロマレッドニンジンなら食べられるという結果です。
このアロマレッドなら食べられると答えた子供たちの感想を原文のまま紹介します。
・ちょっとだけ(1年生)
・頑張って食べてみるから(2年生)
・普通のニンジンは無理だけど甘いニンジンはギリいける(2年生)
・甘くておいしいから(3年生)
・他のニンジンと違って苦みがない(3年生)
・食べたら少しおいしかったから(3年生)
・嫌な味がしない(4年生)
・少し甘いけど食べられる甘さでおいしかった(4年生)
・甘くてご飯に合うからあと味しない(4年生)
・においや味のクセがなかった(5年生)
・ひじきみたいな味でいつもと違った(5年生)
色々と感想はありますが、ニンジン特有の香り、いわゆるニンジン臭を感じることが少なく癖のないこと、甘みが十分にあることでおいしさを感じ、好感を持たれた結果と思われます。
ついでながら≪ニンジンが好き≫と答えた児童の≪今後もこのアロマレッドニンジンなら食べられる≫に書いてくれた理由を紹介します。
・味がおいしかった(1年生)
・とてもおいしくて食べやすかったから(2年生)
・ニンジンの甘いのが好きだから(2年生)
・味がおいしいから(3年生)
・はじめてアロマレッドを食べたけど他のニンジンより甘みが強かった(3年生)
・はじめて食べておいしかったから(4年生)
・甘くておいしいから(5年生)
・甘くてちょうど良い(5年生)
こちらも甘みが強いことが印象に残っているようです。
おわりに
ニンジン嫌いだった子供の半数以上がこのアロマレッドなら食べられると言ってくれ、従来私たちが感じていたアロマレッドニンジンの食べやすさを証明できたと思っています。特に“ニンジンしりしり”というニンジンの味も香りもダイレクトに味わえる料理でこのような結果が得られたことは、シチューなどではさらに違和感なく食べてもらえ、幼少期にアロマレッドのようなニンジンを口にすることで、ニンジン嫌いの子供は減るものと思われます。
余談ですが学校給食に食材を収めている野菜生産者の小堀さんはこの結果を受けて、野菜嫌いの子供たちが一人でも減って喜んで給食を食べてもらえよう、野菜作りに励みたいと話してくれました。
給食用に様々な野菜を作っておられる小堀さん。
アロマレッド®について
トーホクでは様々な野菜・草花について品種改良を進めております。ニンジンに関しては食味の良い品種を育成することを目標とし、その結果育成されたのが「アロマレッド」です。数年間にわたる試験栽培の段階でも、おいしいという声を多くいただき手応えを掴んだわけですが、このニンジンの良食味の正体についての詳細は分かっていませんでした。そこで東洋大学植物機能研究センターの下村教授(現名誉教授)にアロマレッドを食べていただいたところ、香りが他のニンジンと違うのではないか?というご指摘をいただき、更に香り成分について分析をしていただきました。その結果、従来のニンジン品種にはほとんど含まれないベータダマセノン(β-damascenone)が検出されました。ベータダマセノンは香水の成分のひとつでもあり、フルーツの香りを強く感じるため、ニンジン臭を気にせずニンジン本来の甘みを存分に感じて食べられることが好評の原因だと思われています。アロマレッドは東洋大学との共同開発品種です。
(アンケートの一例)