冬越し苗の注意点

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とう立ちとは

植物の花が咲くことを「とうが立つ」と言います。「とう」は漢字では薹と書き、フキノトウ(蕗の薹)などと使われます。とうが立つことは一概に悪いことではありません。フキノトウのように、「とう」そのものを利用する植物は、とうが立つことは良いことです。のらぼう菜やアスパラ菜などは、まさにとう立ちしたものですし、ブロッコリーやカリフラワーも正確に言えばとう立ちしたもので、いずれも花が咲く前の段階で、私たちが都合の良い時期に収穫して楽しんでいる訳です。

のらぼう菜の収穫期。春の訪れと同時に次から次と収穫でき、冬の間にため込んだ栄養分をいっきに楽しむことができます。

とうが立って困ること

とうが立って困ることもあります。秋にタネをまいたダイコンやホウレンソウを春まで畑に置くと茎が伸びてきますが、これはとう立ちです。とうが立ちだすと、根や葉に蓄えた栄養分は花を咲かせて種子を実らせる方に向けられますので、根や葉の養分は失われて食味は落ちてしまいます。レタスやシュンギクでも収穫期を逸した場合、とうが立ってくるのを経験した人はいるかも知れません。これらは収穫期を過ぎてからのとう立ちですから、ある意味収穫し忘れた自分の責任と考え、あきらめもできます。

秋にタネをまいて春先にとう立ちしてきたホウレンソウ。残念ながら、のらぼう菜のように食べられるわけではありません。

一方収穫期にも達していないのに、とうが立って困った経験をお持ちの方もおられるのではないでしょうか?代表的な例はタマネギとキャベツです。秋にタネをまいて冬を越して春から初夏にかけて収穫する場合、作り方によっては花が咲いて食べることができなくなる場合があります。

タマネギのとう立ちの様子。ネギ坊主はタマネギの花で、こうなると地面付近のタマネギは太ることはありません。

キャベツのとう立ち。春に新キャベツを楽しみにしているのに中からにょきにょきと花芽が出てくると、葉は丸まることはなく、当然食べる所はありません。

とう立ちの原因

タマネギや秋まきキャベツのとう立ちは、私たち人間側からすると困ったことですが、花を咲かせることは植物側からすると子孫を残すための自然なことです。ただし植物の種類ごとの花が咲く仕組みを理解すれば、とう立ちを防ぐことはできます。とう立ちの原因にはいくつかあり、それぞれのとう立ちの原因ごとに野菜の種類をまとめました。

① 株が小さい時に低温にあたり、その後気温が上がり日長も長くなると、とう立ちする種類;ダイコン・カブ・ハクサイ・チンゲンサイなど

② 株がある程度の大きさの時に低温にあたり、その後気温が上がり日長も長くなると、とう立ちする種類;キャベツ・ニンジン・タマネギなど

③ 気温が上がり日長が長くなると、とう立ちする種類;ホウレンソウ・レタス・シュンギクなど

それぞれの原因に対応し、とう立ちしにくい品種が開発されています。

例えば“時なしダイコン”や“時なしニンジン”は、低温に長く遭遇してもとうが立ちにくい品種です。

また春まきホウレンソウでは、日長が長くなる春から夏にかけての栽培でもとう立ちしにくい品種を皆さんはお使いのはずです。

問題はキャベツやタマネギです!

その中でも秋にタネをまいて春から初夏に収穫する種類については品種の能力だけではとう立ちを回避することは難しく、栽培方法をマスターする必要があります。

大きい苗に育てれば良いとは限りません!

上で説明した通り、キャベツやタマネギは株がある程度の大きさの時に低温にあたり、その後気温が上がり日長も長くなると、とう立ちする種類です。逆に言うと、株がある程度の大きさにならないように栽培すれば、冬の低温が当ってもとう立ちはしません。それではどの程度の大きさで冬を向かえればいいのでしょう?

例えば秋まきキャベツの場合、本葉が15枚以上で冬を向かえると花が咲いてしまいます。

本葉15枚未満というとこれ位の大きさです。これが限界サイズで、これ以上大きく育てると春の訪れとともに花が咲いてきます。

タマネギの場合は植付け時の苗の太さが6~7mmが最適です。

鉛筆の太さが限界で、それより細い苗を植え付けます。なお左写真の祝箸より細い苗は生育が揃わないので除きます。

伸び過ぎた葉は20cm程度で、根は約2cmで切り取り植えると、スムーズに活着します。

越冬中のタマネギの様子。しっかりと活着していれば大きく育っている必要はありません。12月と2~3月の2回追肥をしておけば、春になって一気に株元が太り立派なタマネギが収穫できます。

タネまき時期や育て方に工夫を

キャベツやタマネギなどの種類は、秋にタネをまいて年内に充分な大きさに育った場合、冬の寒さが花を咲かせるスイッチになってしまいますが、一定の大きさ以下にして冬越しさせれば、スイッチが入ることはありません。適度な大きさで冬を向かえるよう、自分の地域あったタネをまき時期や、苗の育て方を工夫して家庭菜園を楽しみましょう。