タマネギのタネ

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はじめに

野菜のタネの生産でタマネギほど難しいものはないかも知れません。どの種苗メーカーもタマネギに関しては大変苦労しています。しかしタマネギは野菜の中でも重要な品目の一つですから、今年はタネがありませんと言う訳にはいきません。今回はそんなタマネギの採種についてご紹介します。

短命種子と言う宿命

タマネギの宿命、ひとつ目はタマネギのタネは短命種子ですから貯蔵が効かないということです。ですから毎年採種するのですが、自然相手の栽培ですからその年の気象変動によっては順調に生育しないこともあります。失敗が許されないので充分なタネを確保するため余裕を持って作付けせねばならず、そのために作付けは増え、それがまたこれから説明するように栽培期間も長く、神経を使う厄介な種類という訳です。

タマネギのとう立ち特性

二つ目はとう立ち特性。皆さんの中には秋にタネをまいたタマネギの一部が、初夏にとう立ちして収穫できなかったという経験があるかも知れません。一方採種栽培では逆にすべてをしっかりとトウ立ちさせる必要があります。タマネギはグリーンプラントバーナリゼーションと言って、株がある一定以上の大きさになって冬の低温に当たると花芽ができる性質です。

そのため青果栽培では「冬が来る前にあまり大きく育ててはいけませんよ」と言われていますし、少しくらい大きく育ってもとう立ちしないように品種改良されています。ですから逆にすべての株をしっかりと花を咲かせるためには、一年目は青果栽培同様にタマネギを栽培してしっかりとした大きさのタマネギを収穫して母球として貯蔵し、二年目にその母球を植えつけてすべての株が花を咲かせるようにしています。つまり常に2年がかりなのです。

長い生育期間と短い開花期

三番目は開花期の問題です。このように長い栽培期間の最大の山場が、実に短い開花期の訪花昆虫の働きで、これが採種の成否に大きくかかわってきます。受粉をしてくれるミツバチの働き如何によっては、十分な採種量が得られず今までの苦労が水の泡になるという事態もあるのです。最大の原因はタマネギの開花期に咲きだす栗やアカシアの花です。ご存知のように栗やアカシアの花の匂いは刺激的でどうしてもミツバチはそちらに飛んで行ってしまいます。どれだけ立派に母球を育て、それまでしっかり管理をしてきても、この時期のミツバチの働き加減で採れるタネの量が決まりますから、何とも辛い作物なのです。

それでは採種栽培の一連の流れを見ていきましょう。

原種採種

原種採種は単に採種用の種子を増殖するだけでなく、品種特性に間違いがないか最終的な確認と選抜が行われる非常に重要なステップです。トーホクではいくつもの品種を販売しております。それぞれの品種特性が確認できる精度の高い栽培と、当然これらが混ざることがないよう、最新の注意を払っての管理が求められます。

育種部から送られてきた原々種の種子を慎重にまきます。

育苗中の原々種の苗。

それぞれの品種ごとに植えつけて母球を育てます。

翌年の初夏、原種採種用の母球の収穫です。特性に間違いがないか入念な確認が専門のスタッフによりなされます。またそれぞれの種類が混ざらないよう厳重な管理がこの後も続きます。

夏から秋まで、このようにして母球は管理され、最終的に選抜された母球が植えつけられます。

ビニールハウスなど隔離施設に植えつけられ、越冬中の様子。

初夏の頃にとう立ちが始まり、原種の種子が得られます。

F1採種

それでは次に、商品となるF1種子の採種に移りましょう。ご覧いただいたように、原種生産ですでに2年経っているのですが、商品となるF1種子の生産も同様に2年越しの仕事です。基本的には原種採種の栽培と同じですが、タマネギの採種には寒さは厳しくても雪の少ない地域が適しています。

9月、採種専門の生産者による栽培が始まります。交配種ですから雌親と雄親の原種があります。苗を見ただけでは区別はつきませんから、間違えないように管理します。

収穫した母球はビニールハウスなどに取り込み、秋まで貯蔵します。貯蔵中も腐敗などが入らないように注意が必要です。

貯蔵されていた母球は秋に植えつけられます。採種圃場は山間部の隔離された場所にある場合が多いので、最近は獣害予防のために畑の周りに電気柵を設置する必要もあります。

越冬中の様子。開花期に向けて雨よけ資材の設置が進んでいます。

開花が始まりました。ミツバチに働いてもらうために巣箱を設置します。

この時期のミツバチの働きが採種の成否に大きくかかわってきます。

採種圃場は隔離されていることが重要です。ただ雑木林などには栗やアカシアなどの花が咲いているのでそちらにミツバチが飛んで行かないような工夫が必要です。

花が咲き終わると熟したものから順に摘み取り収穫し、雨が当たらない所に取りこみます。また乾燥が進むように風を送り、製品となるタネが出来上がります。

海外での採種

トーホクでは日本国内だけでなく、世界各地で採種を行っています。今回は南ヨーロッパやアフリカ南部の作場の様子をご覧ください。

海外での訪花昆虫の色々。

おわりに

採種は教科書のない仕事です。基本はあっても、品種によって、またその年々の気候の違いによって臨機応変に対応しなくてはいけません。

タネを待っている人に届けるため、今年もまた採種栽培を支えている多くの生産者とともに良いタネを目指してトーホクの技術スタッフは世界中の作場を飛び回っています。